前に少し触れたかもしれませんが、週刊誌の書評でみつけたこの本。
早速、書店で購入して読み始めると、あっと言う間に読み終えました。
人気女性作家三名によるマラソンをテーマにした短編のアンソロジー。
マラソンの舞台は、それぞれ、ニューヨーク、東京、パリと、
三都を舞台に展開されます。
共通するのは、三作品とも、登場人物が「走る」という行為を通して、
自己を回復していく物語ということです。(二作品目のみ主人公は走りません)
そして、走るまでは自分がどう損なわれていたかについてさえ
自覚していなくて、走るという行為の中で、
自分を見つめ、肉体と会話し、自分の欠落を補っていく。
三作目「金色の風」に、こうありました。
「たぶん、走ることは祈りに似ている」
おそらく、ここでいう祈る、とは「願い事」や「神頼み」
とはニュアンスが違います。
言葉にし難いけれど、なにかわかるような気がします。
おそらく、多くのランナーの方もそう思われるのではない
でしょうか。
マラソンは、言ってみれば非常にシンプルなスポーツです。
ごく簡単に説明すれば、
Aという地点から、Bという地点まで走る。それだけ。
これ以上にシンプルなルールを持ったスポーツはないかもしれません。
「血の袋」である、肉体から自由になることのない人間という存在が、
その「重い袋」のままに走ることで、
ほんの少し、自由を得ることができる。
重い袋の中には、それまでの人生やさまざまな背景があり、
そのすべてを抱えて走り続けます。
読んでいくなかで、私にとって走ることはなんなのか、
私の欠落とはなんなのか、
そんな、さまざまなことを考えていました。
頭だけで考えるのではない、体を使ったより深い思考。
鼓動のリズム、呼吸の音、しみ出る汗、筋肉のきしみ、
着地するときの足裏に感じる土の硬さ…。
この生命そのもののようなリアルな感覚が、思考に説得力を
加えるのではないかな、と思います。
さて、今日はスポーツジム。
今から走るのが少し楽しみです。
それにしても、私の欠落とはなんなのか、100キロを走ると
わかるような気がしています。ちょっと怖いな。