2001.10.01草柳大蔵さんに会った
あのアメリカを直撃した同時多発テロ事件勃発の翌日、わが社の新刊『ふだん着の幸福論』 の著者、草柳大蔵さんに会った。当然ながら、このニュースを巡り、いろいろ話が出て、草柳さんの事件を読み説くシャープな分析を拝聴した。
複雑なイスラムの世界、タリバンとビンラディンの動向および中東情勢、石油の問題、ユダヤ資本の集中しているニューヨーク国際貿易センタービルの立地条件、日本の政治姿勢、今後多発するであろうサイバー・テロへの脅威……。何を論じても、長く第一線のジャーナリズムの世界に身をおいていただけあって、的確な分析と発言。歴史的な一日に、草柳さんに会えて本当に良かったと思う。
この会話を通じて、私はいよいよ世界は「自滅のシナリオ」に突入したと覚らざるを得なかった。そして、私の胸をよぎったのは、かつてニューヨーク国際貿易センタービルを含めて16回の爆弾テロ事件を引き起こしたユナボマー、古くはイギリス産業革命のラダイット運動(機械打壊し)etc……の事件だ。反科学・反技術・反産業革命・反物質文明の暴力を良しとする人は、まだこの世にゴロゴロいると思う。
世界観、宗教観の違いの根は深い。怒りにかられて、人を抹殺したい欲望にとらわれるのが、残念ながら愚かなホモ・サピエンスという生き物だ。中世のイタリアの哲学者ピコ・デラ・ミランドラは、いみじくも「人間は限りなく神にも、限りなく悪魔にもなれる存在だ」と言っている!
私がかつて手がけた本で、この際、思い出すのはダニエル・ベルの『21世紀の予感』と、ルッホラー・アヤトラ・ホメイニの『ホメイニ わが闘争宣言』の二冊。前者は、ユダヤ系の偉大なる社会哲学者で、今後、人類は国家間の戦争よりも、民族・宗教・文明・文化……などの相違・対立から紛争が発生すると明確に喝破した本。後者は、イラン革命の時に指導者として、イスラム原理主義の声を高らかに上げた本。
こうしたユダヤ人とイスラム世界の大いなる傑物二人の本を手がけながら、出版活動の限界を感じてしまう。現実の世界は、冷酷であり冷厳極まりない。もっと言えば、今回の事件に拘らず、「暴力と性と狂気」は、人間が人間を止めない限り続くと確信する。
草柳さんとしばしの会話で、私はつくづく人間の限界を感じて、虚しさで胸が一杯の気持ちで別れた。嗚呼、でも、日々の雑誌・単行本編集の仕事は一刻も待ってくれない!