2011.07.14小池邦夫・恭子さんご夫妻
絵手紙作家の小池邦夫・恭子さんご夫妻
・暑い日の一夕、小池邦夫・恭子ご夫妻と会食をした。この日は午前中から、臼井雅観出版部長らと恒例の東京ビッグサイトで行われていた「第18回 東京国際ブックフェア」を見た後、ご夫妻と京王線国領駅近くのお店で待ち合わせた。小池さんご夫妻とは、先日、狛江市役所前花屋の三階にオープンした「絵手紙さろん」(小池恭子さん主宰。8月末まで展示。無料)にお邪魔したとき以来であった。読者の皆さんはご存じかどうか、小池さんは思っている以上に凄い方である。とにかく、日本広しといえども、「手紙書き」を職業としている方は、小池さん以外いないはず。手紙書きでおまんまが食べられる唯一の人ではないだろうか。僕がよく行く喜多見のリハビリ施設の周辺には、「絵手紙発祥の地 狛江。小池邦夫」と目立つ横断幕をつけたコミュニティバス(こまバス)が往来している。狛江市は絵手紙発祥の地として新聞・テレビなどマスコミで報じられたこともあり、知名度も全国区になりつつある。絵手紙恐るべしだ。
・小池さんには最近、弊社から同時に二冊、本を出させていただいた。オールカラー印刷で半世紀以上にわたる絵手紙人生を集大成する『小池邦夫の人を振り向かせる絵手紙』と、二色刷りで言葉の力、言葉の面白さにスポットを当てた『小池邦夫の心を揺さぶる言葉集』である。前著は小池さんが独自に編み出した「拓」と「土版画」が見ものだ。呼び名も制作方法もまったくのオリジナルである。粘土板に釘で深く彫り込むように絵を描いて、これにもう一枚の粘土板を押し当てる。つまり凹面から凸面に変換するのである。これを焼成したのが拓である。この拓の凸面に色を乗せて葉書に刷り取れば出来上がりとなるのだが、是非、この迫力ある絵手紙を本書で見ていただきたい。もう一冊の言葉集は、小池さんが昨年末にかけての、ほぼ四ヶ月間で六十点以上を一気に書きあげたもので、言葉・書ともに勢いがあり迫力十分である。絵手紙は「画と書と言葉」の三要素で見せるものだが、小池さんが一番こだわってきたのは、やはり言葉の力だという。絵手紙はやはり言葉から始まったのだということを再認識させられる好著である。
・今年は小池さんが絵手紙を創始して五一年目に当たる。お話を伺うと、どういうわけか、昨年の五十周年より、今年に大きなイベントが集中しているようだ。春以降だけみても、広島を皮切りに、熊本、大分、札幌と日本各地の有名デパートで個展が開催されるほか、この夏には、日本橋三越本店の催事場を使って『男の絵手紙 25年の絆 緒形拳からの手紙』と題するイベントが行われる。小池さんと緒形拳さんとは実に二五年間にわたって絵手紙交流を続けてこられた。緒形さんは書も絵も達者で、書画の個展もされているし、単行本も出しておられる。若かりし頃、恩師・島田正吾に書の腕を褒められたというが、確かに味のあるいい書を描かれる。これはかなりな大型イベントで、多くの動員が予想される。会期は「八月九日から一四日」までの一週間ほど。一番暑い時期だが、是非、足を運びたいと思っている。この一大イベントの後も、福山天満屋デパートの個展があり、恒例の一一月上旬の銀座・鳩居堂の個展まで一気に流れが出来ている。有難いことに、小池さんは、こうしたデパートの個展会場でサイン会をしながら単行本の販促活動に一役買っていただいている。
・小池さんは心の優しい方である。自分自身がある程度売れると確信しない限り、企画そのものにゴーを出されない。出版社側の採算を真っ先に考えてくれる方なのだ。だから弊社でも、小池さんが著書、もしくは監修者として十冊ほど刊行させていただいたが、いずれも採算ベースに乗っている。増刷を重ねたものも多い。その意味で本当に得難く、有難い著者ではないだろうか。
・今回、お会いして、小池さんは絵手紙の底力を再認識したという。東日本大震災後、小池さんは被災地東北に住む絵手紙教室の生徒たちに、励ましの絵手紙を描いて送った。すると、筆や硯、葉書など絵手紙を描く道具もままならない被災地の絵手紙愛好家からつぎつぎと返事が返ってきた。「生きてまーす」と太い筆文字で書いた人、原発事故のため他県に避難したことなど近況を細かく伝えてきた人……、こうした経緯を『東京新聞』の名物コラム“筆洗”(6月19日付)が伝えている。また、『産經新聞』文化欄(7月6日付)にも同様に、この経緯が詳しく報じられた。被災地の絵手紙会員295人に宛て絵手紙を送ったところ、約200通余りの返書が届いたという。いわき市のお二人は、「まず一歩」「支えられての私の絵手紙の日々」の文章と同時にカラーの絵手紙も紹介されている。小池さんによると、日本絵手紙協会の会員は、中高年の女性が圧倒的多数を占めるが、震災後、男性や大学生が絵手紙に興味を持ち始めているとか。
・そして会食当日だが、なんとこの日の『讀賣新聞』夕刊(7月8日付)に、ほぼ紙面の半分を割いて大きく報じられた。「ヘタでいい ヘタがいい」(邦夫)、「心に響く素直な気持ち」との表題の下、被災地と小池さんのやりとりを感動的に紹介されていた。電子メール全盛の現代だが、どっこい手書き文化が見直されているのだ。現に記者(社会部 稲村雄輝さん)は、「日本人は手書きの文化を捨てようとしているのでは」と危惧していたが……「今、心に揺さぶる手書きの力」を確信している、と素晴らしい結語で終えている。
・臼井君と小池さんとは、かれこれ三十年以上のお付き合いになるという。なんと小池さんの奥様である恭子さんより古い付き合いなのだ。臼井君には、「小池さんの絵手紙関連本を、早く二、三十冊にするように」と発破をかけているところだ。そうなれば、いずれ全国の大型書店には、清流出版の絵手紙コーナーが出来るはず。そうなることを楽しみにしている。師匠の小池さんをよく知っている一番弟子・臼井君は、自著『絵手紙を創った男 小池邦夫』(あすか書房刊)に続く「小池さんの原点に迫った本」もすでに書き上げている。必ず売れて、早晩、増刷になるから、自信をもって刊行する手筈を整えてほしい。そう願うばかりだ。
最新刊『小池邦夫の人を振り向かせる絵手紙』、『小池邦夫の心を揺さぶる言葉集』の二冊