2018.10.26堤未果(つつみ・みか)さん

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堤未果さんが新刊書、『日本が売られる』(幻冬舎新書)を寄贈してくれた。
 
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堤未果さん。12年前の2006年来社時に撮影

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宇宙物理学者・佐治晴夫さんとの対談集『人はなぜ、同じ過ちを繰り返すのか?』(清流出版刊)

・新進気鋭の国際ジャーナリスト堤未果さんは、弊社からは1冊、宇宙物理学者・佐治晴夫さんとの対談集『人はなぜ同じ過ちを繰り返すのか?』を出版させて頂いただけなのに、律儀にも新刊が出る度に贈ってくれる。義理がたい人である。この10月に発売されたばかりの、『日本が売られる』(幻冬舎新書)という衝撃的なタイトルの本が届いた。内容も衝撃的だ。日本は水と安全はタダ同然であり、医療と介護は世界でもトップクラスだが、今、その日本を内側から崩壊させんと外資系企業が魔手を伸ばしているというのだ。米国、中国、EUの多国籍企業群というハゲタカどもが、日本を買い漁っている。それは水の利権であり、米であり、豊かな海や森林や農地、国民皆保険に公教育、食の安全から果ては個人情報などまで、日本が誇る貴重な財産が叩き売りされつつあるというのが、この本の趣旨である。

・未果さんは、フェイスブックやツイッターでもタイムリーに情報を発信している。ツイッターのフォロワーはなんと36万4373人となっており、その人気のほどが伝わってくる。ツイッターでのやりとりを読むと分かるのだが、20代、30代の若者が特に熱心にフォローしているようだ。ツイッターから何人かのコメントをご紹介してみよう。

<「日本が売られる」が歩いて行った秋葉原の本屋に無くて、靖国通りを更に歩き神保町の三省堂で発見し購入。近所のカフェで読んでいるが、怒りがふつふつと湧いてくる…。>
<Twitterでご推薦いただいた“日本が売られる”(堤未果・著、幻冬舎新書)を購入しました。「まえがき」からして面白そうです。これからゆっくり読んでみたいです。>
<香港の本屋さんでも売られていたので、すぐに購入しました。呑気に公園で読書してみましたが、読み進めるうちにゾクゾクとしてしまいました。>
<知らぬ間に消費者として、害を被っていたことに驚きを隠せない。あらゆる財がどこから来ているのか、何に繋がっているのか、確かめなければならないと思った。>
<梅田の丸善ジュンク堂で、堤未果さんの最新作「日本が売られる!」を買いました! 友達にも読んでもらいたいので3冊買いました!>
<近くの書店にはなかったので、アマゾンで手に入れようとしたが、品切れで増刷待ちということだった。売れているらしい。>

  こうしたコメントを読んで、今どきのベストセラー本は、SNSを介して広がっていくのだと実感した。僕が本づくりをしていたころは、書店営業と新聞広告が販促の主流であったから、隔世の感を抱いたものだ。

・ある日の未果さんのツイッターによれば、大手書店回りをしている。売り場担当者を訪ねて、キャッチの入った販促用色紙を書き、さらに平積み店頭販売用のサイン本を作るためなのだ。その日は池袋に焦点を絞ったらしく、三省堂書店池袋本店、旭屋書店池袋店、ジュンク堂書店池袋本店と精力的に訪問されたようだ。著者自らが書店回りをし、販促に協力する。僕にも経験があるが、出版社にとってこういう著者は、本当に有り難い存在だと思う。それにしても、10月5日に発売されて以来、2週間足らずで5刷だというから素晴らしい売れ行きである。成果は十分に表れている。アマゾンでも人気のようで、ツイッターでコメントがあったように、一時的に品切れを起こしたくらいだ。

・未果さんは、この本の導入部で、脅威は身近なところにあると警告している。大統領に就任して以来、日本の大手マスコミはこぞって、トランプ政権叩きをしてきた。確かにトランプや金正恩といった人物は、誰にもわかりやすい敵に見える。しかし、そればかり目を奪われていると、大切なものを奪ってゆく別のモノの存在を見落としてしまう。木を見て森を見ずの状態であることに、警鐘を鳴らしているのである。

・日本には「水と安全はタダ」という言葉があるが、21世紀は水をめぐる戦争が危惧される。水ビジネスは世界で4000億ドル市場といわれる。未果さんによれば、水道民営化の波は1980年代に南米で導入されたのが端緒だとか。民間企業のノウハウを生かし、効率的な運営と安価な水道料金などというキャッチフレーズのもとに導入され、値札のつけられた商品となっていく。結果的にどうなったのか。驚きの実態が明らかになっている。オーストラリアが4年で200%、フランスが24年で265%、イギリスは25年で300%の水道料金の上昇である。こうした事実から、世界の趨勢は、水道再公営化に舵を切る中で、日本は逆に民営化に突き進もうとしていると危惧する。

・実際、2012年、仏のヴェオリア社が、愛媛県松山市の浄水場運営権を手に入れたことが報じられた。外資系企業は、自然災害大国の日本では、災害時の修復費用がかかるため、参入には二の足を踏んでいた。ところが政府はこともあろうに法を改正し、災害時の水道管の修復などは、自治体が責任を負うことにしたのである。これにより、外資系参入企業は、リスクがなく自社の利益のみを追求できることになり、続々と外資の民間企業への水道事業の委託が進められ始めている。

・また、アメリカ政府は、日本の「遺伝子組み換えでない」という表示をなくせ、とクレームをつけていたが、アメリカ追従の安倍政権のおかげで、ついにビジネスの障害が取り除かれた。外資の遺伝子組み換え農薬メーカーは嬉々として参入機会を狙っている。安倍総理や竹中平蔵らが掲げる名目上の「成長戦略」「市場開放」という売国政府に 水道、農業、漁業といった資産から 労働環境、学校、医療、介護などの生活基盤が買い漁れているわけだ。日米FTAが締結されれば、カナダや欧州が輸入を拒否している、人工的に乳量を3割増やす遺伝子組換え成長ホルモンを投与した牛のミルクも輸入されることになるだろう。食の選択肢の減少は恐ろしい未来を招きそうだ。

・日本人の「仕事が売られる」の項では、外国人労働者の受け入れ体制整備が取り上げられる。政府は外国人労働者の受け入れ基準を規制緩和する「入国管理法改正案」の成立を目指している。その裏で暗躍するのはあの竹中平蔵である。彼は株式会社パソナグループの取締役会長であることを忘れてはならない。パソナが受注した一覧表も掲載されているが、これを見たら竹中平蔵と安倍総理とのズブズブの関係が読み取れる。
 

・さらに竹中は、営利企業の意思決定に携わり、利益追求を目的とする会社という法人の役員と同時に、国家の意思決定にも影響を及ぼしている。加計学園問題が噴出して今や「国家戦略特区」を知らない人はいない。竹中は、この国家戦略特区について話し合う諮問会議のメンバーでもあるのだ。この諮問会議では、サービス業で働く外国人労働者が在留資格を取りやすくするよう取得条件を緩めることを決定している。移民受け入れは、コストという経済的要素だけでなく、安全保障にも影響する政策であることを、ちゃんと理解しての政策であろうか。疑問符がついている。
 
・核のゴミビジネスについても、危惧すべきことが目白押しだ。これは新聞などでも報道されたが、環境省が福島第一原発事故で出た放射性廃棄物のうち、8000ベクレル/kg以下の汚染土を公共工事で再利用することを正式決定したことにある。原発事故前は100ベクレル/kgだった放射性廃棄物の「厳重管理・処分基準値」を80倍に引き上げたのである。あまりに量が多く、置き場もない、そこで通常ゴミと一緒に焼却するだけでなく、こともあろうに安倍政権は、公共工事にも使うことにした。世界でもぶっちぎりの緩い基準値に、低レベル放射性廃棄物の処理に頭を抱える世界各国は、この決定に大喜びしている。日本にもって行きさえすれば、公共事業で再利用してくれるというのだから。タガが外れたような環境省の暴走は加速していく。なんと原発事故後に除染した汚染土を、公園や緑地の園芸などにも再利用するというのである。まさに国民の健康など、まったく無視した暴挙というしかあるまい。

・「売られたものは取り返せ」では、一旦、多国籍企業の軍門に下ったとしても、各国の民主主義の成功事例が挙げられている。これを読むと、今こそ消費者から市民へと成り上がるチャンスと希望がもてる。例えば、マレーシアのケースである。日本は消費税を3%、5%、8%と上げ、社会保障に使うと約束しながら、破り続けてきている。この間、消費税アップ分と法人減税分がほぼ相殺されているのだ。それに引き換え、マレーシアは6%だった消費税を廃止してしまう。そして投機型資本を排除し、マレーシアの未来につながる国内投資を受け入れることで、国内雇用を改善させた。外資に国を切り売りすることを拒否し、内需主導に舵を切ったマハティール首相の政策は、短期間に結果を出すことができたのである。

・過去の消費税値上げで明らかなように、仮に10%に消費税を上げたとしても、安倍政権は20%程度まで法人税率を下げようとしている。大企業は440兆円もの内部留保があるにも関わらず、大企業優先政策を続けるに違いない。これは憂慮すべき事態である。「日本に学べ」と言って、アジア周辺諸国にハッパをかけてきたマハティール首相。今度は日本が、「マレーシアに学ばなければいけない」のではないだろうか。

・ここで、堤未果さんの経歴を簡単に紹介しておく。国際ジャーナリスト。東京都の生まれ。和光中学・和光高校を卒業後、ニューヨーク州立大学国際関係論学科を卒業。ニューヨーク市立大学国際関係論学科修士号取得。国連、アムネスティインターナショナルのニューヨーク支局員を経て、米国野村證券に勤務中、あの9.11事件に遭遇する。衝撃を受けて、日本に帰国後は、アメリカ―東京間を行き来しながら、執筆・講演・各種メディアに出演している。主な著書は次の通り。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞、『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書 三部作)で中央公論新書大賞、日本エッセイストクラブ賞を受賞。『沈みゆく大国アメリカ』(集英社新書 二部作)、『政府は必ず嘘をつく』(角川新書 二部作)、『核大国ニッポン』(小学館新書)、『アメリカから<自由>が消える』(扶桑社新書)など多数ある。なお、著書は海外でも翻訳出版されている。

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未果さんの出世作『貧困大国アメリカ』(岩波新書)

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『沈みゆく大国アメリカ』(集英社新書)
 
・最後に、ご主人の立憲民主党参議院議員・川田龍平氏にも触れておきたい。川田龍平さんは、薬害エイズ裁判で一躍クローズアップされたのは、ご承知の通り。長らく厚生労働委員会に所属し、薬害、医療、環境分野に力を注ぎ、医療の専門家を呼んだ公開勉強会などを行っている。子どもと妊婦を放射能から守る「子ども・被災者支援法」の発議者でもある。同法は2012年に成立。「子ども・被災者支援法議員連盟」事務局長に就任している。未果さんと同様、ツイッターで自らの活動ぶりを発信している。

・書店の果たす意義についても積極的に支援し、しばしば書店でイベントも開催する。また、「ゲノム編集は遺伝子組み換えでないから規制は必要ない」を基本スタンスとする日本政府に真っ向反対の立場でも知られる。 確かに欧州では 「ゲノム編集」は 「遺伝子組み換え食品」と同じ「予防原則」に沿って国として規制する方針だ。世界各地の科学者からも、ゲノム編集が未知数で 兵器にも応用できる事から 規制なしは危険との声が多い。また、無所属議員の時代から言論統制および警察権限拡大のリスクを含む児童ポルノ法改正案に対して慎重な立場を示しており、創作物の規制/単純所持規制に反対する請願署名市民有志の紹介議員としても名を連ねている。未果さんとは、お互いに刺激し合って、二人三脚で歩み続けている。「あとがき」で、こんな言葉が書かれていた。「私たちの一瞬一瞬の選択が、未来へのギアを入れ直すのだ」。次代の子供たちに恥ずかしくない日本を残さなくてはならない。そんな気概が伝わってくる言葉だ。