◀第7回▶“お仕事”あれこれリサーチ その③──他人様に「教える」お仕事

<データ>

職業名 講師

業種 第三次産業/教育業界

仕事内容 自分の知識を他人様に教える。

就業形態 正規雇用、非正規雇用、業務委託契約、個人経営。在宅ワークも可能。

想定月収 0円~40万円

上限年齢 なし

必要資格 なし(あった方がよい場合/必須の場合もある)

必要技能 他人様に伝授するに値する知識や技能/コミュニケーション力/人間に対するあたたかな目線と懐の深さ

 

<どんな仕事?>

ひと言で講師と言っても様々です。

大学講師もあれば一回こっきりの講演会やセミナーなどで話す講師もあります。今回は社会人相手の専門学校やカルチャーセンター、もしくは企業が開催するセミナーなどで教える講師を取り上げたいと思います。

言語講師

日本語や英語などを教える仕事です。

日本語の場合、教える対象は主に留学生。他言語の場合は子供から社会人まで幅広く教えることになります。

意外なことに、言語講師には無資格でもなれます。2024年2月現時点では教員免許のような国家資格はありません。しかし、英語や国語の教員免許や、関連する何らかの検定に合格していれば、仕事を得るのに有利に働くのは間違いありません。給与交渉もしやすくなるでしょう。

もちろん例外もあります。外国人が「留学」の在留資格を取れる日本語教育機関(法務省告示校)で日本語を教える場合は、

1.四年制大学卒業+日本語教師養成講座受講(420単位時間以上)

2.日本語教育能力検定試験合格

3.大学もしくは大学院で日本語教育を専攻・副専攻した経歴

が必要です。

日本語教師養成講座は文化庁指針に基づく420時間以上のカリキュラムで構成された講座で、専門学校や通信教育講座などで受講できます。一定以上の基準で修了できれば、上記の通り、法務省告示日本語教育機関で日本語教師ができるようになります。

また「日本語教育能力検定試験」は公益財団法人日本国際教育支援協会が主催する検定で、日本語教育の体系的な知識や教育現場での対応能力が一定基準に達しているかを測定します。受験資格に国籍や学歴、関連講座受講歴などの制限はなく、これ自体は国家資格ではありません。

しかし、2024年4月から「登録日本語教員制度」が始まります。日本語教員試験に合格し、教育実習を修了した場合のみ教員として登録できる制度で、これは国家資格になります。日本語教員試験は2024年から始まる予定の試験で、昨年年末には現役の日本語教師などを対象にした試行試験が行われました。

登録日本語教員でなくとも日本語講師に就くことは可能ですが、資格があった方が活躍の場が広がるのは間違いありません。

英語など他言語の講師には今のところこのような動きはありません。ただし、何らかの検定に合格していたらそれは売りになります。

言語講師は正規雇用、非正規雇用、業務委託など様々な形があります。自宅を教室とする個人教師であれば法人を通さず直接生徒を集められます。またフリーランスでも企業研修講師として複数受け持つことができれば、ある程度安定して稼ぐことができるでしょう。最近ではオンライン講座も盛んになり、在宅で好きな時間に講師をすることもできるようになりました。

賃金はスキルや需要によって異なります。正社員で月給25万円~35万円程度、非正規で時給だと1時間1,500円~3,500円程度あたりが相場のようです。

カルチャーセンター講師

手芸、料理、工芸、美術、木工、楽器、声楽、文学、ダンス、生涯学習系などありとあらゆる講座があります。何か一つでも人に教えられるほどの知識や技能があれば、誰でも講師を務めることはできます。資格は特に必要ありませんが、何か売りになるような経歴はあった方がいいでしょう。伝統芸能やお稽古ごとなら各流派の師範免状、芸術系なら受賞歴や芸大卒の学歴が半ば必須のようになっています。

講座を開くにはカルチャーセンターに申し込む方法が一般的です。カルチャーセンターでは集客可能か検討した上で開講を判断します。

収入は生徒から受け取る謝礼金の30~40パーセント程度です。残りはカルチャーセンターに上納する形になります。

セミナー講師

単発セミナーなどの講師を請け負う仕事です。内容はビジネス・マナーからビジネス・ノウハウ、さらには専門知識など様々あります。近年は情報化社会のトレンドやデータサイエンスの行末などを教える講師が特に人気のようです。

主催者は自治体、企業、学校など様々で、そこから依頼を受けて出向くことになります。

セミナー講師になるには講師派遣会社に登録する方法が一般的です。この場合は派遣社員と同じで、派遣会社との契約内容次第で収入が変わります。

個人で請け負うこともできますが、この場合、仕事を得るルートは紹介や口コミが多くなるでしょう。強い人脈がある場合は紹介のみでも十分ビジネスとして成り立ちます。しかし、口コミを当てにするならば、世間に広く名前を知ってもらえるように、何らかの顕著な業績をあげるか、あるいは有名人になるしかありません。謝礼はお車代程度から一回数十万円まで。本人の知名度や呼ばれた先の経済力次第で大きく変わります。

 

<リアルな事情>

人に何かを教える仕事も、リタイア層には人気です。

「先生」と呼ばれる職業はなんであれ自尊心がくすぐられるのでしょう。

しかし、その実態はサービス業ど真ん中です。敬ってもらうどころか、全方向的に生徒に対して気を遣っていかねばなりません。今どきは医者や大学教員ですらそんな感じです。「先生」職でふんぞり返っていられるのは、選挙運動期以外の政治家だけでしょう。

 

生徒さんたちは“お客様”

さて、従来、人を教える仕事は物理的な「教室」を持つのが前提でした。しかし、近頃はオンラインで教えるパターンが増えています。特にコロナ禍で一気に増えました。

今や外国語は、現地在住のネイティブにオンラインで教えてもらうのが当たり前になっています。初心者を卒業し、練習台が欲しいタイプの生徒だったら、オンライン講師に教えてもらうほうが効率的かつ経済的です。

しかし、さすがに初心者はそうもいきません。やはり教えてもらう側の母語で会話できる講師に、基礎から教えてもらうのが一番です。

つまり、日本人が外国語を教える場合、初学者向けのカリキュラムを提供できなければ需要はないと思っておいた方がよいでしょう。何ごともそうですが、できない人に一から教えるのが一番難しいものです。つまり、言語に習熟しているだけでは不足で、「教える技術」を習得しておかなければできない仕事だと言えます。

日本語講師の場合、日本語ネイティブなら簡単になれると思ってしまう向きもあるようで、長年なぜか人気の職業扱いになっていました。しかし、「話せる」と「教えられる」の間にはマリアナ海溝より深い溝があります。2024年になって“日本語教師”の資格がより厳しくなったのは質を高めるのが急務だったためなのでしょう。

これは他の「教える仕事」でも同じです。趣味が玄人はだしの粋に達したからといって、あるいは習いごとの師範免状を取ったからといって、すぐに教えられるわけではありません。講師として成功するには一にも二にも“お客様”である生徒さんたちを引きつけて離さない人柄が第一要件になるようです。

一方、単発セミナーの講師は知名度と人脈が武器になりますが、それ以上に大事なのは提供する知識に何らかの付加価値をつけることです。

たとえば、「掃除」。ひと昔前なら掃除のやり方をセミナーで講義します、と募集したところで関心を持たれることはほとんどなかったでしょう。

しかし、そこに何らかの思想的あるいはスピリチュアル的意味合いを乗せることで「掃除」でさえパワーのあるコンテンツにできることが証明されました。つまり、プレゼンテーションさえ上手にできれば、何でも講座やセミナーの種になるわけです。

専門性があれば講師になること自体は可能です。しかし、継続してお呼びがかかるようにするにはプラスαの個性が必要な時代なのです。

 

【参入方法】

・資格を取る、あるいは特技を身につけて専門学校などに講師登録する。

・フリーランスの講師として自宅教室やオンライン教室を開催し、ネットなどを通して生徒を募集する。

・フリーランスの講師として法人などに売り込む。

 

【こんなタイプにぴったり!】

・「褒めて伸ばす」が得意

・自分自身に付加価値をつけるのが上手

・分け隔てなく人と接することができる

・教え子の成長を我がことのように喜べる

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・先生と呼ばれたい

・部下の養成が下手だった

・相手から立ててもらえないとイライラする

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。