◀第14回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑩-1──定年なし、国家資格者「八士業」への道

<データ>

職業名 弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士

業種 第三次産業

仕事内容 資格取得者でなければ扱えない専門業務

就業形態 個人事業(個人事務所/法人所属)

想定年収 0円~1500万円

上限年齢 なし

必要資格 国家資格

必要技能 実務経験

 

<どんな仕事?>

士業という言葉は耳にされたことがあると思います。

士業は、高度な専門知識と技能を必要とする職業の総称で、一般的には名称の末尾に「士」の字が付く職業を指します。その中でも、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士の8業種は行政や司法に関わる国家資格なので、特に「八士業」と呼ばれています。

今回は「50歳から目指す八士業」がテーマです。

まずはそれぞれがどのような仕事なのか、一つ一つ確認していきましょう。

 

弁護士

弁護士は法曹三者の一つですが、公職である裁判官や検察官とは異なり、民間で法律の専門家として活動する職業です。その目的はたった一つ。「依頼者の利益を守る」ことです。どのような案件であれ、法律を駆使して依頼者の利益が最大になるように努めなければなりません。

法治国家である日本において、その役割の大きさは今更特筆するまでもないでしょう。法的文書作成や法令相談などの生活に密着する仕事もあれば、国民の耳目を集める刑事事件の被告人弁護や国家相手の訴訟まで、およそ弁護士が不要な分野はないものと思われます。

弁護士になるには司法試験に合格する必要があります。

司法試験を受験するには、法科大学院課程を修了するか、司法試験予備試験に合格する必要がありますが、どちらも受験資格を得た最初の4月1日から5年の間に合格しなければなりません。ただし、この要件を満たしていれば年齢制限はありません。

例年、合格率は50%を切る程度です。首尾よく合格すると司法修習生として1年ほどの研修を受け、しかる後に最後の試験である「司法修習生考試(二回試験)」に挑むことになります。そこで落ちなければ(不合格は1~2%だそうです)、晴れて日本弁護士連合会に弁護士登録し、弁護士と名乗ることができます。

このように、ただ学ぶだけでも数年かかる上、何段構えもの試験があります。1から目指すにはなかなか厳しい道です。

 

司法書士

司法書士は、法務局や裁判所、検察庁などに提出する公的書類の作成や手続きを代理で行います。不動産登記や商業登記はイメージしやすいと思いますが、他にも債務整理や財産の供託手続などの仕事があります。さらに、後半生ではいつお世話になるやも知れぬ相続登記や成年後見人業務も司法書士の業務の一部です。

司法書士になるには、司法書士試験に合格する必要がありますが、弁護士と違い学歴に由来する受験資格はなく、誰でも受験することができます。その代わり、といってはなんですが、合格率は約3%と大変な難関資格として知られています。また、合格後は必ず司法書士会が開催する新人研修を受講し、しかる後に日本司法書士会連合会に所属しなければなりません。合格後も大変そうですが、国民の財産や権利を守る仕事ですから、当然といえば当然なのでしょう。

 

行政書士

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や手続きの代理を行う仕事です。営業許可などをはじめとする役所への許認可申請や定款変更などの企業法務が中心になりますが、相続手続きや外国人の在留資格申請、帰化申請なども業務範囲に入ります。また、成年後見人業務も範疇とします。

行政書士もまた行政書士試験に合格しなければなれません。受験資格は特になく、年齢、学歴、国籍等に関係なく誰でも受験できます。合格率は10%程度なので、やはりなかなかの難関です。また、公務員として行政事務に携わった人は、その期間が通算して20年以上(高卒者は17年以上)であれば無試験で行政書士になれます。また、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士のいずれかの資格を有していれば、各都道府県の行政書士会に行政書士として登録することができます。また、弁護士や司法書士と違い、合格後に特別な研修を受ける必要はありません。シニアが目指す場合、一番アクセスしやすい士業ではあります。

 

社会保険労務士

社会保険労務士は、企業や個人の労務管理および社会保険の専門家です。社会保険は年々制度に変更や改変があるためにややこしくなる一方、さらに労務管理に関する法律も刻々と変化していきます。そのため企業としても専門家に頼る方が万事遺漏なくことを進められるとあって、今後も需要が増えると見込まれている職業です。

企業と契約すると、その労務関係業務のサポートをするのが主な仕事になります。助成金の申請や年金相談なども業務に含まれます。また、労務トラブルの相談や労働安全衛生に関するコンサルティングも行います。

資格試験を受験するためには、大学、短期大学、高等専門学校卒業などの学歴か、公務員もしくは労働社会保険諸法令の規定に基づき設立された法人で3年以上の勤務経験を持つ必要があります。また、弁護士資格を有していれば無試験で登録することができます。

合格率は7%弱と、やはりなかなかの狭き門です。ただし、合格者のうち20%弱は50歳以上だそうです。企業で長らくこうした分野の仕事に関わっていた人にはかなり現実的なセカンドキャリアの道といえるでしょう。

試験合格後は全国社会保険労務士会連合会に登録する必要がありますが、その際には2年以上の実務経験を求められます(合格前の経験も含まれます)。もしくは、この実務経験に代わる資格要件を満たすための、「事務指定講習」を受講する必要があります。ですので、まったくの未経験から必要なキャリアを積む場合、少なくとも3、4年以上の時間がかかる、ということになります。やはり、経験者のネクストステップ向きと思ったほうがよさそうです。

 

<リアルな事情>

現役時代にホワイトカラー労働者であった人が、リタイア後のセカンドキャリアとして士業を目指す例はそれほど珍しくありません。定年がなく、国家資格保持者としてのステイタスも期待できるので魅力的なのでしょう。

とは言え、さすがに50歳を過ぎて司法試験を目指す人はかなり珍しいと思われます。しかし、いないわけではありません。法務省が発表しているデータによると、これまでの最高齢合格者は2017年に合格した71歳の方だそうです。また、毎年のように60代後半で合格する人がいます。前述の通り、弁護士になるには受験資格を得てから5年の間に合格しないといけませんから、リタイア後に法科大学院などに入って勉強されたのでしょう。素晴らしいですね。

けれども、弁護士になったからといってすぐに世のイメージ通り“高給取りの弁護士先生”になれるわけではありません。弁護士事務所などに入って実務経験を積む必要があります。しかし、高齢者を見習いとして雇ってくれる事務所がどれほどあることか……。それでなくても近年弁護士の成り手が増え、若い人でも就職活動が大変だといいます。法律事務職員(パラリーガル)として長年勤めていたなど、特殊な事情がない限りやはりかなり厳しい道と言わざるを得ません。

司法書士、行政書士、社会保険労務士も同様です。ズブの素人が資格だけ取ったからといって、すぐに仕事につながるとは考えられません。

一方、現役時代に総務や人事、法務といった関連部署で仕事をしていた人であれば考慮する価値は十分あるでしょう。中には在職時から退職後を見越して資格だけ取得する人もいるようです。試験に一度合格すればその効力に期限はなく、各協会にはいつ登録してもよいからです。また、各業界で許認可関係の仕事に携わったことがあれば、行政書士の資格を得て経験業界に特化した営業をすることもできます。

会社員時代に得た経験を活かせるのであれば、キャリアのゴール地点として、またシニア起業として十分に現実的な道です。

 

たとえ合格しなくても

熟年に差し掛かってから新しいことを学ぶのは大変です。時間やお金を投資したのに結果を出せなかったらバカバカしいと考え、挑戦を躊躇する向きもあるでしょう。しかし、たとえ試験には合格できなかったとしても、生活に関連する法を学んでおくことは決して無意味ではないと私は考えています。なぜなら、老後のために知っておくべき制度や知識を得ることができるからです。

好例が成年後見制度です。

法的後見制度とは知的障害、精神障害、認知症などの理由で、判断能力に不安がある人たちを後見する制度です。老いれば誰もが認知症になる可能性がありますが、そんな時に当事者の生活を守るのが後見人の仕事です。

成年後見人になるための特別な資格は必要ありません。しかし、家族や肉親が後見人になるのは20%ぐらいにとどまるそうです。なぜなら、後見人になるには、それなりの能力が求められるからです。

後見人は家庭裁判所によって選任されますが、面談などを通じて家族が後見人になるのは難しいと判断された場合、司法書士や弁護士などから選ばれます。

この場合、報酬は、家庭裁判所が発生しうる業務量や被後見人の財政事情などを鑑みて決定します。月2万円程度のことが多いようですが、財産が多ければその管理が必要になってくるので、月6万円程度まで引き上げられることもあるようです。被後見人に支払い能力がないと判断されれば無料になりますが、普通に暮らしていけるだけの収入があれば月額は発生すると考えておいてよいでしょう。

しかし、もし家族の誰かが有資格者、あるいはそれに準ずるような知識があれば、家裁も認めてくれるでしょう。報酬金の節約になります。せこく感じるかもしれませんが、老後はなにが起こるかわかりません。節約は大事です。

それに、そもそも社会生活を送るにあたり、法や行政制度に関する知識は大きな武器になります。資格取得は最終目標として、勉強するだけでも十分意義があるのではないでしょうか。

 

※【こんなタイプにぴったり!】【こんなタイプはやめておいたほうが……】は、次回「その⑩-2」にまとめて記します!

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。