◀第15回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑩-2──プレシニアの時期に、学び直しと人脈づくりで拓く「八士業」

<データ>

職業名 税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士

業種 第三次産業

仕事内容 資格取得者でなければ扱えない専門業務

就業形態 個人事業(個人事務所/法人所属)

想定年収 0円~1000万円

上限年齢 なし

必要資格 国家資格

必要技能 実務経験

 

<どんな内容>

前回に引き続き士業の解説です。今回は税理士、弁理士、土地家屋調査士、海事代理士の4つを取り上げます。

 

税理士

税理士は、個人や企業の税務に関する業務をサポートする仕事です。納税者であれば誰でもお世話になることがある仕事なので、八士業の中ではもっとも身近といえるかもしれません。仕事内容は主に税務書類とその資料の作成代行、税務相談、税務署への申告や納税の手続きを代理で行う税務代理です。また、税の知識を活用して経営コンサルティングを営む税理士もいます。

税理士になるには、税理士試験に合格する必要がありますが、受験資格は他と比べ少々ややこしくなっています。

まず、受験資格には「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類があり、このうちのいずれか1つでも満たせば受験資格が認められています。個々を説明すると長くなるので詳細は割愛しますが、2023年から諸条件が緩和され、以前に比べて受験しやすくなりました。その代わりに、試験内容は難しくなり、合格率は約4%という狭き門になっています。

なお、弁護士か公認会計士の資格を持っていれば税理士試験を受けなくても税に関する業務を行うことができます。また、税務署で23年以上勤務し、指定の研修を修了した人は無試験で税理士になれます。

試験内容は会計学に属する科目と税法に属する科目の11科目があり、科目ごとに試験が行われます。そして、5科目で合格点を取れば合格になります。一度合格した科目は永久に有効です。

また、試験に合格しても、税理士として協会に登録するには2年間の実務経験を求められます。一から始めるシニアにとっては少々ハードルが高いですが、在職中に会社内で経理部などに所属し会計事務を2年以上経験していれば、それも「実務経験」にカウントされるので、資格取得後すぐ税理士の看板を掲げることはできます。

 

弁理士

弁理士という職業は、一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、情報化社会かつグローバル化が進む現代では、その重要性がどんどん増していくであろう仕事です。

弁理士は知的財産権の管理に関わります。

では、知的財産とは何でしょうか。2002年に公布された知的財産基本法には、①発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物等人間の創造的活動により生み出されるもの、②商標、商号その他事業活動に用いられる商品・役務を表示するもの及び、③営業秘密等事業活動に有用な技術上・営業上の情報と定められています。

つまり、苦労して生み出した商品価値のある知的財産(特許、実用新案、意匠、商標)を無断借用されないよう、少々くだけた言い方をするならばパクられないよう、国家が法に基づき保護しているわけです。とはいえ、アイデアが生まれたら即保護対象になるわけではありません。特許庁に申請する必要があります。さらに申請したからといってすべてが認められるわけではありません。「知的財産」と呼ぶにふさわしい新規性や独自性、また進歩性や産業上の利用可能性などを網羅的に判断した上で、要件を満たしていれば晴れて専有できる知的財産とみなされます。

弁理士はこの手続きを行うことができる国家資格です。さらに、登録後に権利侵害された場合の対策なども仕事のうちに入ります。法的紛争が発生した場合、代理人を務めることもあります。

弁理士試験は、受験資格に特段の制限はありません。また、弁護士や、特許庁で審判官/審査官として7年以上務めたキャリアの保持者は無試験でなれます。

試験の合格率は6%前後で、やはりなかなかの難関です。

弁理士の仕事はクライアントから出された案件に対し、まず同様の先例がないか調査するところから始まりますが、まったく知らない分野での調査はかなり骨が折れることでしょう。よって、現役時代に携わっていた分野に特化した弁理士を目指せば、比較的仕事を得やすいかもしれません。

 

土地家屋調査士

知的財産が無形のものなら、有形財産の筆頭格が不動産です。それに関わる職業に国家資格が求められるのは当然のことなのでしょう。土地家屋調査士は、クライアントが所有する土地や建物の登記申請をすることができます。

もちろん、申請だけが仕事ではありません。登記のためには土地の境界を確認し、明確にしなければなりません。ですので、その調査や測量も業務に含まれます。また、建物についても、新築や増築、さらに取壊しなど、何らかの変化があれば登記申請が必要で、これら手続も土地家屋調査士が行います。土地の筆界(登記上の区画線)に関する民事の法的紛争では、代理人を務めることもあります。

土地家屋調査士試験も受験資格に制限はありません。試験内容は測量知識の他、法務や登記実務、さらに面接での口頭試問もあります。なお、測量士、測量士補、一/二級建築士の資格があれば測量知識の試験は免除されます。

毎年の合格率はおおよそ10%前後。これもまた難しい試験なのでした。

土地家屋調査士は30代から40代の資格取得者が多く、個人事業主として活動する人も少なくありません。50代で資格を取り、開業することもまったく不可能ではないようです。しかし、やはり実務経験がないと難しいのも確かで、先輩調査士の事務所で補助者として経験を積んでから独立するコースが一般的であるようです。

 

海事代理士

おそらく、海運業の経験者でもないかぎり、あまりこの職業名を耳にすることはないかと思われます。登録者も行政書士が5万人ほどいるのに比べ、2千強と少数です。かなりのマイナー資格ですが、海に取り囲まれた日本のロジスティックにとってなくてはならない仕事です。

主な仕事は①船舶の登録/登記、②海上運送契約の締結/代理、③海上損害保険の代理で、これに関連する各種業務も行います。たとえば、海上事故の調査や立証、船員の雇用関係業務などです。

海事代理士試験も受験資格に制限はありません。試験内容は海事に関する法令の知識を問うもので、合格率は5割程度と高くなっています。また、公務員として海事事務に10年以上携わった経歴があれば、無試験で海事代理士として登録できます。

ただ、他の士業に比べると業務範囲が狭い分、需要も限られ、海事代理士だけで開業するケースは少ないようです。

 

<リアルな事情>

今回は前回より特殊性が高い士業を紹介しました。それだけにリタイア後のセカンドキャリアとして目指すのであれば、現役時代の経験がないと少々厳しいかもしれません。

また、すべての士業に共通するのは、それなりの人脈がなければ開業しても顧客開拓が難しい、という点です。

国家資格が必要になるほど公共性の高い業務を、まったく見ず知らずの新人に任せてくれるクライアントはそうそういないでしょう。よって、完全リタイア後に一から目指すのはあまり現実的ではないように思います。

しかし、40代ぐらいから将来を見据えて、実務に携わりつつ資格を取り、顧客候補に当たりをつけておくなどすれば、定年がなく、開業資金も少なくて済む士業は魅力的です。経験さえあれば50代でもまだまだ間に合います。

人生百年時代に入り、世代を問わず常にリスキリングしていくことが求められるようになった今、プレシニアの時期に学び直し、専門性を高めていくのは人生設計におけるスタンダードになっていくのかもしれません。

 

【こんなタイプにぴったり】

・試験勉強が苦にならない

・コミュニケーション能力が高い

・どんな分野であれ、問題解決に関わるのが好き

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

・クライアントの意向を汲めない

・公共心がない

・知識をアップデートし続けるのが苦手

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。