◀第17回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑫──ストレスフリーな働き方が魅力の「ハンドメイド作家」

<データ>

職業名 ハンドメイド作家

業種 第二次産業(第三次産業でもある)

仕事内容 手芸品や工芸品などの製造販売

就業形態 個人事業、法人経営

想定年収 0円~500万円

上限年齢 なし

必要資格 なし (食品を扱う場合は食品衛生責任者と食品衛生法に基づく営業許可が必要)

必要技能 なし

 

<どんな内容>

ハンドメイド作家とは、自分でデザインした手芸品や工芸品を制作販売している人たちのことを言います。販売物は、アクセサリーや雑貨、洋服から木工品、ガラス製品など様々です。

かつては、たとえ何かを作れたとしても、販売ルートを開拓するのが大変でした。実店舗を構えるとなるとハードルが高く、いいところバザーやフリーマーケットなどで細々と売るのが関の山でした。

しかし、近年はインターネットの普及によるeコマース発展により、個人が作品を販売するための仮想市場がひろく利用されるようになっています。制作物が商品として販売できるだけのクオリティがあると確信できれば、特別な資格や開業手続きなどは必要ありません。

また、現時点ではこれという特技がなくても、興味を持てる手工技術を見つけられさえすれば、ワークショップに参加したり、カルチャーセンターに入学して学んだりすることができます。近年はYouTubeなどの動画サイトを見て独学することも可能です。コツコツと練習して、商品とするに足るレベルに至れば、ハンドメイド作家としてデビューできるかもしれません。

収入は、作品の種類や単価、そして言うまでもなく作家自身のスキルによって大きく変わってきます。多くの場合、月に数万円稼げれば御の字のようですが、人気が出れば本業としても遜色ない程度の収入を得ることができます。

ハンドメイド作家として仕事をするメリットは、やはり自分が作った作品を人に買ってもらう喜びをダイレクトに味わえることでしょう。また、自宅を仕事場にすれば、開業時に発生するコストは材料費ぐらいで抑えることができる、低リスク起業です。後半人生の仕事としては、自分のペースで仕事ができるのも魅力です。

もちろん、デメリットもあります。

まずは商売として軌道に乗せるのがなかなか大変、という点です。

先ほど触れたように、現在はインターネット上に個人がハンドクラフトを販売する場がたくさんあります。ですので、まずはそうしたサイトに登録し、販売スペースを持つのが現実的です。販売サイトには、登録自体は無料で、販売が発生して始めて手数料を支払う形を取るものもあります。ですので、初期費用の心配はありませんが、仮想店舗をオープンしたからといって、すぐにお客さんがつくものではありません。自分で集客の工夫をする必要があります。アクセサリーや布製品など、比較的人気が高い分野だと、その分競争も激しくなっています。

また、売れた後の流通管理や事務作業も発生するので、作るのは得意だけれども管理作業が苦手であれば、誰かに手伝ってもらうなど、なんらかの手を講じる必要はあるでしょう。

 

<リアルな事情>

かつては“主婦の手慰み”や“年寄りの暇つぶし”扱いだった手芸や日曜大工も、eコマースが端々まで広がったことで、立派に商売として成り立つようになりました。

私も、最近は小物類やバッグを中心に、ハンドクラフト販売サイトで探すことが多くなっています。好みにマッチする個性的な商品をリーズナブルに購入することができるからです。

気に入った商品に関してはリピートすることも多いですし、同じ作家さんの作品でトータルコーディネートすることもあります。商品は概ね満足できるレベルで、失敗したと感じたことはほとんどありません。それだけしっかりとプロ意識を持つ人たちがやっているのでしょう。

ハンドメイド作家には、当然ながら創造性と手先の器用さ、そしてオリジナリティがいの一番に求められます。

 

宣伝力を身につけるのも重要

しかし、それだけでは職業としては成り立ちません。作家として成功するには、高品質な作品を作ることはもちろん、ターゲットとなる顧客を明確にすることやマーケティング戦略も必要です。また、個対個の取引になる分、企業取引以上に個々の顧客を大切にできなければリピーターの確保は難しいでしょう。

またeコマースではネット上での宣伝や告知が不可欠です。ということは、写真撮影の技術や、InstagramやTikTokなどのツールを使いこなす必要が出てきます。SNSは苦手、などと内にこもっている余地はなさそうです。満足な収入を得るには、根気と向上心を持って、作品作りや販売に取り組まなければならないということなのですね。

やはり、「好き」だけでは商売にするのは難しそうです。

しかし、逆に考えれば、企画から販売、アフターサービスまで一人で考え、実現できるのは最高の楽しみでもあります。余計なくちばしを挟んでくる上司も、思うように動いてくれない部下もいないわけですから。ある程度自己完結できるスキルさえあれば、最高にストレスレスな働き方といえるのかもしれません。販売などの実務に関してもネット上でノウハウが公開されているので、それを見れば最低限の知識は学べます。

また、人気が高くなれば講師として人に教えたり、実用書を出版するなど、派生する収入源を持つこともできます。さらに、近頃ではYouTubeなどにノウハウを伝授する動画をアップするハンドメイド作家も増えています。こちらは、よほどの人気にならない限り収入自体は当てになりませんが(くわしくはYouTuberの回⦅第13回⦆を御参照ください)、自作品の宣伝としては有効です。どんどん挑戦するべきかと思われます。

収入「だけじゃない」魅力

と、ここまでは本連載の主旨に基づいて「収入を得る」という観点からつらつらと述べてまいりましたが、最後に少し甘酸っぱい本音を申し述べるとすると、ものづくりの楽しさはやはり自分の手で何かを生み出すこと、それに尽きるのだと思います。

今後、AIの進歩によって、人の力が求められる分野はどんどん狭くなっていくでしょう。

特に知的生産については、かなりの部分が取って代わられるものと考えられます。しかしながら、AIには手芸品や工芸品を作ることはできません。よしんば設計図やデザイン図は出せたとしても、それを現実世界で形にすることは人間にしかできないことです(今のところ)。

人不足の時代とはいえ、シニア層に求められているのは、クリエイティビティの発揮より、単純労働の担い手として役割です。シニア求人のほとんどが清掃や警備員であることを見れば明らかです。

しかし、収入の柱を単純労働とクリエイティビティ労働の両方に持っておけば、リスク分散になると同時に、心のリスク管理にも繋がるのではないでしょうか。

自分の作品が人から求められる喜びは、間違いなく後半人生を彩ってくれるはずです。

 

【こんなタイプにぴったり】

クリエイティブな仕事が好き

手先が器用

プロ意識がある

 

【こんなタイプはやめておいた方が……】

儲けを優先したい

ルーズで顧客対応ができない

せっかち

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。