2024.08.15
◀第18回▶“お仕事”あれこれリサーチ” その⑬──利用者からの“ありがとう”がやりがいに「家内労働代行業」
<データ>
職業名 介護/育児/家事代行
業種 第三次産業
仕事内容 従来「主婦業」とされてきた仕事
就業形態 業務委託、正社員、パート、アルバイト
想定年収 30万円~400万円
上限年齢 なし
必要資格 なし(資格必須の介護職を除く)
必要技能 家事、育児、介護の技術
<どんな内容>
一般家庭ではつい最近まで、家庭内で発生する諸々の労働は家族の誰かが無償で担当するものと相場が決まっていました。その多くは主婦と位置づけられる女性が担っていたわけですが、近年は夫婦双方がフルタイムで共働きをする核家族が増えたため、平均的なお家でも家内労働を外注する流れが生まれてきています。
その流れを後押ししているのが、利用者とサービス提供者を結びつけるマッチングサイトの増加です。
以前は家内労働の代行というと家政婦派遣を専門とする家政婦紹介所に紹介してもらい、同じ人に継続して来てもらうものでした。しかし、現在はマッチングサイトを通してギグワーク(*)的に受発注する方法が主流になりつつあります。
現在、サイトを通して提供されている家内労働代行サービスには以下のようなものがあります。
家事代行
掃除:家全体の清掃から、水回りだけ、庭だけなど場所を限定した案件、あるいはゴミ捨てだけといったケースまで。ただし、ハウスクリーニング業者ではないので、特別な技術を要する清掃はサービス外となる。
洗濯:洗濯、乾燥、アイロンがけまで一式。染み抜きなどクリーニング店が提供する特殊技術が必要なものはサービス外。
料理:食材の買い出しから始まることも、依頼先の家にある材料だけで作ることもある。毎日食事の支度をしに行くこともあるが、数日分の作り置きをすることの方が多い。
買い物:家族に幼い子や要介護者がいる場合、あるいは心身に不自由があって外出が難しい人が主な依頼主になる。食料品や日用品の買い物をする。
家事代行サービスの給与体系は、日給/時給制と案件ごとの報酬制に分かれます。時給制の場合はだいたい各地の最低賃金を少し上回る程度のようです。案件ごとの場合、内容によって変動がありますが、複数掛け持ちして一日一万円を超えるか超えないかぐらいが一般的でしょう。
ケアワーク代行
育児:いわゆるベビーシッター。海外では学生のアルバイトだが、日本では育児経験者が多い。学齢期に入るぐらいまでの子どもの世話や見守りなど。
ホームヘルパー(訪問介護員):高齢者や障害者など、日常生活に介助が必要な人に、身体介護や生活援助を提供する。ホームヘルパーとして仕事をするには、厚労省認可の介護職員初任者研修課程修了以上の介護資格が必要。ただし、生活援助だけなら生活援助従事者研修を修了すれば、生活援助中心型の訪問介護サービスに携わることができる。
ペットの世話:毎日の散歩や、旅行中の餌やり、トイレ掃除など。
ケアワークのうち、育児代行の平均時給は1500円程度とされています。一般的な家事代行より少し高いですが、命を預かる仕事と考えれば特段高給とはいえないでしょう。
ホームヘルパーの給与も同程度です。生活介助のみの場合はこれより低くなります。
ペットシッターは案件ごと1300円前後が相場です。ただし、1件に掛かる時間が比較的短いので、効率的に仕事を入れて完全フルタイム状態で週5日働けば月に20万円ぐらいは稼げるようです。
就業形態は業務委託から雇用契約を結ぶ形まで様々です。仕事の単価は業務委託の方が高くなりますが、代わりに社会保険は自前になりますし、仕事中に事故が発生しても労災の対象外になります。少なくとも最初のうちはパートやアルバイトとして雇用契約を結んで働く方が安心かもしれません。
いずれの仕事も、依頼者の自宅を訪れて仕事をすることになります。提供するサービスに習熟しているのは大前提ですが、他人のプライベート・エリアに立ち入ることの意味をしっかり理解しておくのも必須条件です。
* ギグワーク
マッチングサービスを利用して、個人が自分のスキルや能力を提供し、案件ごとに報酬を得る働き方のこと。従来の日雇いに近いが、発注者と受注者の間に雇用関係はなく、仲介者が需給を案件ごとに結びつける形を取る。場所や時間にとらわれない自由な働き方ができるため、元々はこづかい稼ぎ程度の副業形態として始まった。しかし、現在はこれを本業とするケースも増え、それに伴い偽装請負問題などの社会問題も発生してきている。
<リアルな事情>
昭和世代には、家事代行を依頼するのはよほどのお金持ちや有名人のお宅だけ、というイメージがあるかと思います。
しかし、今や時代は変わりました。これまで結婚や出産を期に専業主婦となっていた女性たちが、継続してフルタイムの正社員として働く道を選ぶのが当たり前になったため、家内労働の外注を視野に入れるようになってきたのです。背景には共働きでないと一定の生活水準を保つのが難しくなっていること、さらに自分の人生プランとして家庭依存を前提にしなくなった女性が増えたことがあります。また、自分で家事をする時間のない、あるいは家事技術がない単身者や、認定レベルの問題で介護サービスは利用できないものの家事や外出は体力的に厳しい高齢者が依頼するケースも急増しているそうです。
結果、無償労働とみなされていた家内労働にも、市場で取引可能な価値があると改めて認識されるようになりました。今のところ、完全に一般化した、とまではいえませんが、市場規模は急拡大中です。
これは、専業主婦の経験しかないために外で働くことに躊躇していた層にとっては朗報といってよいでしょう。これまで「換金」という意味では無価値とされていた経験を活かせるようになったわけですから。
とはいえ、家事も賃金労働になったら、当然一定以上のレベルが求められます。自宅では少々手抜きもできますが、お金をもらうならば、それは許されません。また、提供するのはあくまで「代行」サービスであり、やり方は基本先方の希望に合わせるものと理解しておく必要があります。
マッチングサービスの提供者には事前研修をする業者もありますが、内容はほとんどがシステムの使い方や働き方心得程度で、実際に提供する技術について時間をかけて学ぶような機会はありません。ですので、我流家事がお客さんの満足を得られるレベルにあるか、自己判断する必要があります(料理代行は事前に実技テストがあるケースもあります)。
ケアワークになると、家事以上に家庭ごとの事情が違ってきます。育児や介護は数年前の情報でも古くなるほど刻々とやり方が変わっています。
つまり、家事もケアワークも「私は今までこうやってきたから」は通用しないわけです。お客様のお気持ち第一が大事な要点になるとか。多くのマッチングサービスでは、利用者がサービス提供者の評価を直接書き込めるスペースが設けられています。自分の仕事が即座に★いくつ、のような形で目に見えて評価されてしまうわけですから、それなりに緊張感を強いられます。
家内労働サービスも時代に合わせる必要性が
とかくIT化が急速に進み、“世の常識”の変化も激しい昨今ですが、家内労働代行サービスもその軛(くびき)から逃れることはできません。
ITに関しては、最低限のIT機器、つまりスマートフォンぐらいは使えないと仕事を得るのは難しいでしょう。利用者とのマッチングサービスはスマートフォンやパソコン経由で行われるからです。働ける時間を登録するのも、仲介業者からのオファーを見るも、ネット上に公開されたシステム上で行われます。スマホなんて電話とLINEしか使わない、では済まないのが現状です。とはいえ、ほとんどの場合、画面を見たら直感的に使えるように工夫されているのでさほど難しくはありません。積極的に慣れる気持ちがあれば大丈夫かと思われます。
次に“世の常識”については、ポリティカル・コレクトネスやコンプライアンスといった、この10年ぐらいで一般的になった概念に対応していく必要があります。
たとえば、もし育児代行で伺った先のお宅の娘さんが戦闘ロボットの玩具で遊んでいたとしましょう。それを見て「あら、女の子のくせにロボットなんかが好きなの? それは男の子のおもちゃよ。着せ替えができるかわいいお人形の方がよくない?」などと言ったら、今はアウトです。
こんなケースもあります。うちの子には乳製品と卵にアレルギーがあるので与えないでくださいと言われていたのに、「好き嫌いはいけないから直しましょうね」と好意のつもりで与えてしまう。これなどは下手すれば訴訟されかねない致命的なミスです。
これらがなぜアウトや、致命的なミスになるのかわからないのであれば、育児代行をするのは難しいかもしれません。
また、個人情報保護について敏感な人が増えている昨今、おうちの事情をほかで漏らすなどもってのほかです。知り合いにだけ公開のSNSにおもしろおかしく、あるいは愚痴として書いてもどこかから漏れて訴えられる可能性があります。
ただし、コンプライアンスを理解しておくのは、自分の身を守るためでもあります。
派遣先で無理難題を押し付けられたとして、明らかにコンプライアンス違反や契約違反である場合は、それを盾に拒否することができます。この場合、たとえ悪評をつけられたとしても、仲介業者に申し立てればきちんと対処してくれるでしょう。
いずれにせよ、普段から家事をしているのであれば、サービス利用者と同じ目線に立って先方の困り事を解決することができます。これは何よりのアドバンテージです。心からの「ありがとう」をもらえるのは、金銭を超えたうれしさがあります。
【こんなタイプにぴったり】
家庭労働のエキスパートたる自信がある
時代に合わせられる柔軟性がある
口が堅い
【こんなタイプはやめておいた方が……】
何事につけ我がやり方が一番と思っている
若い人には万事何事も教えたくなる
「家政婦は見た!」にあこがれている
門賀美央子(もんが・みおこ)
1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。