▶第19回◀“お仕事”あれこれリサーチ その⑭──異文化交流が楽しめる「インバウンド関連の仕事」

<データ>

職業名 インバウンド関連業

業種 第三次産業

仕事内容 海外からの観光客を対象にサービスを提供する仕事

就業形態 個人事業、法人経営

想定年収 10万円~300万円

上限年齢 なし

必要資格 後述

必要技能 外国語の読み書き/会話能力、リサーチ力、多文化理解

 

<どんな内容>

コロナ禍による入国制限が解除されて以来、訪日外客数は増加の一途をたどっています。国策として「インバウンド=外国人の訪日旅行」が推し進められている今、この傾向はしばらく続くことでしょう。

対外国人の観光業は数少ない成長産業であり、中高年が個人として参入できる余地もあります。今回は、そんなインバウンド関連の仕事を二つ考えてみたいと思います。

 

1.通訳ガイド

一つ目はインバウンド対象の旅行ガイドです。

以前は有償で通訳ガイド業を営むには国家資格である通訳案内士の資格が必須でしたが、2018年に法改正され、現在は無資格でも訪日客の旅行案内を仕事としてできるようになりました(ただし条件あり)。

とはいえ、案内人としての語学力や知識が必要なのは変わりありません。それだけでなく、それぞれに異なる文化背景を持つ外国人旅行者のニーズに的確に応えるには、広い見識と多様な価値観への理解が必要です。また、きめ細やかなおもてなしの心も求められるでしょう。

まとめると、

(1)ガイドする地域についての文化理解と知識の蓄積

観光スポットの情報だけでなく、地域特有の歴史や文化、生活習慣の知識や、季節ごとのイベント、さらに外国人が喜ぶグルメや土産物などの情報を幅広く知っておく必要があります。

さらに、周辺地域への移動手段やお得な切符情報など、土地勘がなければリサーチしづらい最適な動線を提案できる知識も欠かせません。

(2)会話力と多文化理解

何語であれ、顧客と円滑なコミュニケーションを実現できるだけの語学力が必要です。その上で、文化的な違いを理解し、日本文化との橋渡しができるようになるためには、日本語自体の能力も高くないと難しいでしょう。

一方、顧客の文化背景を理解しておくことも重要です。たとえば、宗教的な制約に配慮した食事の手配や、リピーターなどが求める特別な体験の提供など、個別のニーズに合わせた対応力が求められます。また、顧客が病気や事故など緊急事態に陥って助けを求められるケースも発生するかもしれません。そんな場合、日常会話を超えた語彙力が必要になるでしょう。近年はスマホの辞書/翻訳機能を使えば聞き慣れない言葉も即座に意味を把握することはできますが、文脈を正しく理解し、寄り添うような対応ができるのは人間だけです。安心して旅を満喫してもらえるよう、丁寧な対応と柔軟な発想が求められます。

(3)体力

場所によっては歩いて案内する時間が長くなります。特に、現地でのウォーキングツアーなどを開催する場合は体力がなによりも必要です。

 

2.民泊経営

Airbnbというネット上のサービスをご存じでしょうか。日本語では「民泊」と呼ばれる、自宅の空き部屋や所有物件を旅行者に貸し出すマッチング・サービスで、ギグワークの物件版といえるでしょう。

民泊と民宿の違いは、その形態や法的位置づけにあります。民宿は旅館業法に基づいて営業する施設ですが、民泊は2017年6月に成立した住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づいた、比較的新しい宿泊形態です。米国においてネット上で提供者と利用者を結びつけるサービスが始まり、日本にも入ってきたことから法令整備がされました。

民宿は通年営業が可能で、食事の提供もできます。一方、民泊は年間営業日数に180日という制限があり、一部の例外を除けば素泊まりが基本です。また、民宿は宿専用の調理場や浴場など、設備の設置義務がありますが、民泊は一般住宅をそのまま活用できます。とはいえ、最低限の台所、浴室、トイレ、洗面設備はなければいけません。また、他にも色々と要件があるものの、基本的に普通の家程度の設備があれば問題ないでしょう。なお、営業届は必要であり、非常用照明器具の設置や避難経路表示などの安全対策も民宿と同様に求められています。他にも細かい要件はありますが、宿泊施設の少ない地域では観光客にとってありがたい存在になっています。

 

〈リアルな事情〉

近年はインバウンドが過熱気味で、一部ではオーバーツーリズムなども問題になっています。それでも日本に来ようと思ってくれる外国人が増えるのは、経済的にも、日本の国際的地位称揚のためにもよいことです。

そして、現在の傾向を将来の好循環につなげる鍵は、彼らと直に接する仕事をしている人たちの肩にかかっているといって過言ではありません 。

海外旅行をしたことがあれば、誰もが現地ガイドの印象がそのまま旅行の印象に直結する経験をしているのではないでしょうか。私もアジア、北米、欧州などを何度か旅しましたが、どんな場所でも現地ガイドとの交流が心に強く残っています。

 

さて、ツアーガイドについては、中高年が始めるなら、フリーランスガイドとして個人が個人から依頼を受けるプライベートツアーか、あるいは現地集合現地解散の形態で顧客を募集するのが早道でしょう。近年では、観光ガイドの仲介サービスが増え、そこに登録しておけばサイトを経由して受注することができます。また、LinkedInのようなビジネス特化型人材サイトに登録しておけば、直接の取引も可能になります。

実は私も年に一度ほど、とある米国の大学の学生さんたちに、東京のお化けスポットを巡るスタディツアーを提供しています。言葉は米国から引率してこられる先生に通訳をお任せしているものの、毎回コースを考え、お化け話の裏にある日本文化の真髄を米国の学生たちにわかりやすく説明するのは、なかなか骨が折れるものです。それでも、説明を熱心に聞いてくれる姿を見ればいっぺんに報われます。心躍る楽しい仕事です。

なお、語学力に関しては、相手の要求を理解できるだけの力があれば、ネイティブなみの流暢さはなくてもよいのでは、という気がしています。というのも、私が外国で出会ったガイドさんたちの中には、日本語の発音や言葉遣いがかなりあやしい人もいたからです。しかし、それでも十分でした。つまるところ、大事なのは、気持ちと知識、なのだと思います。「どのようにすれば楽しいひと時を過ごしてもらえるのか」に集中すべきなのでしょう。とにかく、ガイドをするには一にも二にも自分自身の勉強が大切。もしかしたら、これ以上の脳トレはないかもしれません。

 

次に民泊。これは、自宅の空き部屋や、誰も住んでいない所有物件を活用したい人には最適でしょう。

私は海外でも国内でも民泊を利用したことがあります。ホテルを利用するより安くつくだけでなく、御自宅の一室を借りるタイプの民泊では、家主さんと楽しくお話するなど、温かい時間を持つことができました。一方、アパートの一室や戸建て一棟を丸々借りる場合は、文字通り“住むような旅”になり、現地の食材で料理をしたり、地元民向けの公共交通機関やお店を利用したりと、ツアーだとまず経験し得ない旅になり、これまたよい思い出になっています。

とはいえ、見ず知らずの人に部屋を貸すなんて不安という向きも多いことでしょう。その点、民泊サービスを斡旋するサイトでは、提供者は利用規約を細かく設定できるほか、利用者の評判を見て受け入れるかどうか選ぶことができます。実は、提供者のみならず利用者も事後評価の対象となるため、ひどい使い方や規約違反をした利用者には低評価がつけられるのです。提供者も安心できるようなシステムになっているからこそ、契約に厳しい外国でサービスが広がったのですね。

日本では法的な制限が多いため、現状はそれほど一般的ではありませんが、今後需要の増加とともに提供者も増えていくものと思われます。我が家に他人を入れることに抵抗がなければ、十分検討に値する“仕事”です。ただし、昔ながらの住宅地の場合、地域住民が見知らぬ外国人がウロウロするのを嫌うこともあるため、近隣への根回しはしておいた方が無難なようです。

 

どちらの仕事も「国際社会に生きる自分」をダイレクトに実感できる仕事です。異文化交流が好きならばやってみる価値は大いにあり、ではないでしょうか。

 

 

門賀美央子(もんが・みおこ)

1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。