2024.11.15
◀第22回・最終回▶“お仕事”あれこれリサーチ その⑰──現代社会の中で「旅人」として生きる暮らし方〈後編〉
第21回に続いて職業「旅人」を実現させる方策を考えていきたいと思います。
その2 国内ワーキングホリデー
1年365日ずーっと旅に生きるのはコスト的にも体力的にも難しいかもしれません。ですが、年間何ヶ月かは旅先で働く、ならどうでしょうか。
つまり、ワーキングホリデーのように旅先で就労して稼ぐ方法です。自身の仕事をリモートワークするワーケーションと違い、パートなりアルバイトなりの短期雇用で仕事をすることになります。
こうした働き方のもっとも代表的な例はリゾートバイトです。リゾート地はオフシーズンとオンシーズンでは必要となる労働力に雲泥の差があり、非正規労働者に頼らないと効率的な運営ができません。ですので、定期的に一定量の短期雇用が発生します。これをうまく利用すれば、一年のうち好きな期間だけ「自分が住みたい場所」に住めることでしょう。
寒さ暑さを避けたいなら冬場は暖かい南方地域、夏場は涼しい山岳地や海辺のリゾート地、非日常の雰囲気を味わいたいなら景勝地や別荘地、温泉マニアなら温泉地などなど選択肢は豊富です。
たとえば、こんなプランはどうでしょう。
年末年始は温泉地、2月から3月頃までは北海道のインバウンド向けリゾート地、ゴールデンウィーク頃は山岳地帯の宿、夏場は今や本州より涼しい沖縄でアルバイトをする。その合間の期間は自宅で普通に過ごします。
接客が苦手なら、農業や漁業系のアルバイトをする、という手もあります。第一次産業のアルバイトはどうしてもハードな肉体労働が中心になるので、体力がないと厳しいのは否めません。しかし、一度働いて気に入ってもらえると次も声をかけてもらいやすいという利点があります。また、とれたての収穫物をいただける(かもしれない)のもこうしたバイトの特典といえるでしょう。
リゾートバイトにせよ、第一次産業の臨時雇いにせよ、今は若い働き手の減少によって常に人手不足の状態です。ゆえに、以前なら相手にもされなかった50代60代も働き手として歓迎されるようになりました。少子化が高齢者の就業にはプラスに働くというなんとも皮肉な状況ですが、甘受できることは甘受すればよいと開き直るしかありませんね。
仕事を見つけるには
これらの仕事を見つけるには、やはりインターネットの利用が一番手っ取り早いようです。
近頃は求人サイトも細分化し、希望する仕事を見つけやすくなっています。
「リゾートバイト 求人」や「農業 求人」をキーワードに検索すると、その分野に特化した求人サイトが複数出てくるので、希望にあわせて検索すればよいでしょう。
単なるアルバイト以上に稼ぎたい場合は、派遣会社に登録し、短期のリゾートバイトを紹介してもらうのが一番です。希望をしっかり伝えれば自分で探さずとも案件を紹介してもらえますし、アルバイトより時給などが少しよくなるケースも多いようです。ただし、即戦力を期待されているので、それなりにきつい仕事も発生します。
逆に、がっつりバイトよりももう少し旅人気分寄りの方がいいという場合は、「おてつたび」のようなサイトを利用するとよいでしょう。おてつたびは「お手伝いしながら知らない土地を旅する」がコンセプトであり、求人を出している側も予めそれを理解するよう求められているので、行ってみたらむちゃくちゃこき使われた、というようなアンマッチは避けることができます。
また、総務省の管轄事業である「ふるさとワーキングホリデー」のポータルサイト「ふるさとワーホリ」には、一般求人には載らないような単発案件や小規模案件が掲載されています。ただし、こちらは若い人限定の求人が多いので、シニアには少し使いづらいようです。とはいえ、求人だけでなく、地方移住の促進イベントの情報なども掲載されるので、第二の故郷や終の棲家探しも兼ねて定期的にチェックすれば理想の案件が見つかるかもしれません。
メリットとデメリット
国内ワーキングホリデーの場合、仕事内容は100パーセント肉体労働になります。重労働も珍しくありません。
実は今夏、おてつたびを使って山梨県にある別荘地で10日間ほどアルバイト体験をしてみました。
職場は山林にあるバーベキュー会場の洗い場で、食器洗浄機から出てくる食器類をひたすら拭いては所定の位置に戻す作業に従事しました。
なにぶん普段は座り仕事ですので、はたして体力的に保つか若干不安ではあったのですが、1日の労働時間が朝と夕に分けて3時間ずつで残業なし、提供された寮も仕事場から徒歩20分程度だったので案外なんとかなりました。まさに案ずるより産むが易し、でした。
また、仕事内容も単純作業とはいえ、のべつ幕なしに流れてくる様々な食器をどんな順でさばいていけば最高効率でやっつけられるかを考えながらやっていると、なんだかパズルゲームのようで、なかなか楽しく働くことができました。昼食と夕食は支給だったおかげで洗濯以外の家事からは開放されましたし、なにより終業後にゆっくりと温泉に入れたのは特筆すべきメリットだったと思います。
しかしながら、肉体的負担はそれなりに大きいものでした。一番参ったのは3日目ぐらいから全身がパンパンにむくんだことです。立ち仕事による全身むくみは、20代の頃に経験済みだったのですが、代謝スピードの差でしょうか。往時ならば2日もすれば収まったのに、今回は帰宅後も3日ほどはむくみが残ってしまいました。体力低下ばかりでなく回復力の衰えも勘案して働かないといけなくなったのは悲しいことです。
とはいえ、こうした症状は体が慣れれば収まるはずなので、普段から体を使う仕事をやっておけば回避可能なデメリットかもしれません。
いずれにせよ、猛暑を通り越して酷暑だった今夏のお盆頃ですら夜は冷房いらずの山中で、空き時間はバードウォッチングをしながら軽い散歩や気ままな昼寝で過ごせたのは楽しい体験でした。また、寮でご一緒したひと時の同僚たちと夜中まで他愛ない話をしたのも、まるで学生に戻ったような気分になれました。最終日にはお世話になった職場の方々に「また来てくださいね!」と言ってもらえたのもうれしい思い出です。
それに、学びもありました。別荘地という場所柄もあり、現代の社会的格差を目の当たりにしたのです。社会問題を肌感覚で知るよい機会になりました。
そんなわけで、もし私が職業「旅人」を選ぶとしたら、体が動く間は年間計画を立てた上で国内ワーキングホリデーをやってみるのもいいのではないか、と思い始めています。
子育てや家のローンなど、なにかとお金がかかる現役時代と違い、シニアになれば正規雇用にこだわる理由はどんどん減っていくものです。ある程度自分でコントロール可能な働き方ができるのならば、生活における労働の意味も変わってくるのではないでしょうか。
人生百年時代=死ぬギリギリまで働かなければいけない時代をどう生き抜いていくのか。それを「働き方」の観点から予め考えておくのも、心豊かな老後を送るための秘訣だと思います。
さて、長らく続いた「50歳からのハローワーク」は今回が最後になります。
これまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。
また機会があればお会いできればと思います。
門賀美央子(もんが・みおこ)
1971年、大阪府生まれ。文筆家。著書に『文豪の死に様』『死に方がわからない』など多数。
誠文堂新光社 よみもの.com で「もっと文豪の死に様」、双葉社 COLORFULで「老い方がわからない」を連載中。好きなものは旅と猫と酒。