内容紹介
—-好き、という言葉には、幾通りもの意味がある—-
峯悦子三十一歳、少女小説を書いている。何をやっても長続きせず大学は中退、でも私を熱烈に慕う二十三歳の彼と共棲み中。めくるめく恋だったのに、またたく間に色褪せてしまったのは、彼の父の入江と会ってしまったから。入江の匂いは、ずうっと昔から馴染んできたもののように思われて……。ひと夏の間に揺れ動ぐ、微妙な恋心を描いた名作!
《類とのはじめのとき、私のしたいことは、類のしたいことだった。私が喜ぶことをすると、類も喜んでいた。いや、類は、いまも、ぴったり合ってて、そうだと思ってる。でも、私は、つぎの型にめぐりあってしまった。その世界では私の面白いこと、したいことを、そのままやって、もっと、ぴったり、いく気がする。でも、それは、どうにもならない世界である。いくらぴったりいったって。彼は、類の父親なのだから。—-本文より》